東京高等裁判所 昭和36年(う)1511号 判決
被告人 謝南海こと、邱根枝 外一名
〔抄 録〕
所論は、麻薬事犯において麻薬を没収するには、麻薬取締法第六十八条の規定によるべきであつて、刑法第十九条によるべきではないにかかわらず、原判決は、原判決主文第四項掲記の塩酸ジアセチルモルヒネが本件犯罪行為を組成したもので、犯人以外の者に属しないことが明らかであるとして、刑法第十九条第一項第一号第二項本文によつて、これを没収したのであるから、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤がある、というのである。
よつて按ずるに、麻薬事犯処罰の準拠法たる麻薬取締法には、その第六十八条に没収に関する特別の規定があつて、本件のような違法な行為があつた場合には、犯人が所有し、又は所持する麻薬は、必ずこれを没収しなければならないことになつており、ただ、同条但書において、犯人以外の者の所有にかかるときは、これを没収しないことができる旨の自由裁量の余地が残されているに過ぎないものである。即ち、同条は、刑法第十九条に対する特別法の関係に立つものであるから、犯人の所持する麻薬を没収する場合には、もつぱら麻薬取締法第六十八条に準拠すべきであつて、刑法第十九条によるべきでないことは、いうまでもないところであるといわなければならない。しかるに、記録に徴すると、原判決主文第四項掲記の麻薬は、犯人たる被告人邱根枝が、法定の除外事由がないのに、営利の目的で他から買い入れて所持していたものであることが認められるにもかかわらず、麻薬取締法第六十八条を適用せず、刑法第十九条を適用してこれを没収する旨の言渡をした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤があり、論旨は、理由があるから、刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第三百八十条に則り、原判決中被告人邱根枝に関する部分を破棄すべきものとする。
(下村 高野 堀義)